自分にできること

自分にできること。というのは本当はごくごく限られている。


もっと自分にはできるはず。だとか、逆に、自分にはそんなことはハナからできっこない。というものの、丁度中間にあるものが、本当に自分にできることだったりする。自分にとっては当たり前すぎて、例えば自分の取り扱い説明書を作ったとしたら、自分では項目すらつくらないものが、本当は重要なのだ。


仕事に関してはもっとそうで、「メールを見る」「返事を書く」「人の話を聞く」「扱っているものについてきちんと理解する」「期限どおりにつくる」…というような誰でもできるような事が、本当はというか、とても大切で、そしてそこにこそ、個性が色濃く出てくるのだ。


世の中で個性的だとか、革新的だと言われているものも、よく知れば、他と違う事を目指したのではなく、雑味を取り去って持ち味そのものを引き出したというような結果で、そして有名無名を問わず、その事を芯から理解している人はとても美しいと思う。



私が家族の事情でとても苦しんでいた時のこと。ある人がこう声をかけてくれた。


「私はいつでも車が出せますから、遠慮なく言ってください。私が伊瀬さんにできることはこれくらいしかありませんが。」



がんばれ。でも、なんでもするからね。でもなかった。
それは、がんばりつくして、何をどうしたらいいかすら分からなかった当時の私には、現実世界でのたった一つの確実な事のように思えたものだ。



もしかして自分がいまここにいることそのものが、もうすでに個性で、自分にできることなのだとすれば、あとはもうそれを信じるしか無いし、そうできたら本当に幸せだと思う。